佐賀地方裁判所 昭和62年(行ウ)4号 判決 1991年9月27日
佐賀市兵庫町大字藤の木980番地
原告
井崎金彌
右訴訟代理人弁護士
河西龍太郎
佐賀市堀川町1番5号
被告
佐賀税務署長 永松睦朗
右指定代理人
福田孝昭
同
坂井正生
同
伊香賀静雄
同
佐藤實
同
井芹知寛
同
中野良樹
同
木原純夫
同
山崎元
同
白濱孝英
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が昭和57年9月10日付でした原告の昭和54年分の所得税についての更正及び過少申告加算税賦課決定(但し,昭和60年11月11日付の異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。
第二事案の概要
一 争いのない事実
1 原告は絵画販売業を営む者であるが,昭和54年分の所得税について,同55年3月15日までに事業所得金額を434,025円,分離長期譲渡所得金額を0円,納付すべき税額を0円とする確定申告をした。
これに対し,被告は,同57年9月10日付で,事業所得金額を434,025円,分離長期譲渡所得金額を113,978,083円,納付すべき税額を48,690,000円とする更正及び2,430,000円の過少申告加算税を賦課する旨の決定をした。
原告はこれを不服として同57年11月11日異議申立てをしたところ,被告は,同60年11月11日付で右更正処分等を一部取り消して,事業所得金額を△(以下,負の数を意味するものとする。)9,181,041円,分離長期譲渡所得金額を113,978,083円,納付すべき税額を43,312,300円,過少申告加算税を2,165,600円とする旨の決定をした(以下,この一部取消し後のものを,「本件更正処分等」という。)
原告はこれをさらに不服として同60年12月10日国税不服審判所長に対し審査請求をしたが,同審判所長は同62年6月18日付でこれを棄却する旨の裁決をした。
2 原告の昭和54年分の分離長期譲渡所得金額は113,978,083円である。
3 原告の昭和54年分の事業所得に関する別表番号①,③ないし⑰及び⑲の項目の金額は,各項目下欄記載のとおりであり,同年中に原告が,売上原価として同表番号②欄記載の金額の,借入金利子割引料として同⑱欄記載の金額の各金員を支出した。
二 争点
1 原告の主張
原告の昭和54年分の事業所得については,別表番号②ないし⑲記載の支出の外に次のとおり合計127,272,000円の必要経費があり,これを算入すると,同年分の事業所得金額は△136,453,041円となるから,本件更正処分には,これを過大に認定した違法があり,右認定を前提とする過少申告加算税賦課決定も違法である。
(一)佐々田幸弘に対する支払利息
(1) 原告は,昭和41年ころから,金融業者の佐々田幸弘(以下,「佐々田」という。)から,金員を借り入れるようになったが,その際,約束手形又は為替手形を振り出し,約1か月後の支払期日に日歩25銭の金利を支払わなかった場合には,これを元本に組み入れて新たな券面額の手形を振り出す方法によったため,同人に対する債務が増大し,その額は同51年末には40,000,000円を超え,同52年5月ころには54,930,000円,同53年12月ころには約130,000,000円にも及んだ。
原告は,佐々田に対し,同54年3月14日,右債務の金利の一部として30,000,000円を支払ったほか,同年中に合わせて60,000,000円を支払ったものであり,これは,同人に対する事業上の借入金にかかる支払利息であるから,必要経費(借入金利子割引料)に算入すべきである。
(2) 少なくとも,佐々田は,原告に対し,昭和52年8月17日ころまでに合計30,000,000円を利息月4分5厘の約定で貸し付けたから,同年8月18日から同54年3月14日までの利息を利息制限法に基づき年1割5分の割合による制限超過利息の元本充当を行うと,同54年3月14日当時の残元本は9,396,366円となり,同日原告が佐々田に対し支払った30,000,000円のうち,20,603,634円は制限超過利息として元本に充当されたものであるから,少なくとも右金額分は同年分の支払利息又は損金として必要経費に算入すべきである。
(3) 又は,少なくとも,佐々田は,原告に対し,昭和52年8月17日ころまでに合計30,000,000円を利息月四分五厘の約定で貸し付けたから,同54年3月14日原告が佐々田に対し支払った30,000,000円のうち,少なくとも,同年1月1日から同年3月14日までの間の月四分五厘の割合による利息合計3,240,000円は,同年分の支払利息として必要経費に算入すべきである。
(二)西村裕こと西村哲朗の絵画7点持ち逃げによる損害金
原告は,昭和54年中に,西村裕こと西村哲朗(以下,「西村」という。)に対し,次のとおり絵画7点の販売を委託したところ,同人はこれらの絵画を持ち出し,他に販売しながら,その売上代金を横領したので,原告は合計42,100,000円の損害を受けたから,右損害金は必要経費(雑損失)に算入すべきである。
作家名 作品名 規格(号)
香月泰男 裏山秋 30
仕入価額 15,000,000円
横山操 富士 10
〃 2,500,000円
織田広喜 女達 6
〃 1,500,000円
田崎広助 桜島 8
〃 1,600,000円
藤田吉香 木 1
〃 9,500,000円
中山忠彦 少女 16
〃 6,500,000円
杉山寧 紅梅 軸
〃 5,500,000円
(三)絵画「闘争」の仕入価額
原告は,昭和47,8年ころ,藤田嗣治作,絵画「闘争」(以下,単に「闘争」という。)を,某所から15,000,000円で仕入れ,同54年2月ころ,東鐵男に対する1,000,000円の借金のため譲渡担保に供し,同人に引き渡したものであるところ,被告は,「闘争」の仕入価格を3,000,000円と認定しているから,その差額12,000,000円を売上原価に加算すべきである。
(四)原田謙一に対する売掛金の貸倒損失
原告は,原田謙一(以下,「原田」という。)に対し,昭和54年10月9日,次のとおり,絵画4点を代金額合計10,300,000円で販売したが,同人は,偽作の絵画販売により同56年に逮捕され倒産し,右売掛代金は回収不能となったものであるから必要経費(貸倒損失)に算入すべきである。
作家名 作品名 販売価格
宮本三郎 「花と女」 3,000,000円
山本文彦 「裸婦」 1,450,000円
浮田克躬 「風景」 1,650,000円
林武作 「バラ」 4,200,000円
(五)新里真紗生こと新里正夫に対する売掛金の貸倒損失
原告は,新里真紗生こと新里正夫(以下,「新里」という。)に対し,昭和54年6月ころから11月ころまでに,次のとおり,絵画等4点を代金額合計2,872,000円で販売し,同人は,右売掛代金を,当時新たに始めた茶道具の販売のための個展の収益から支払う予定であったが,右個展が成功せず,同55年には事実上倒産し行方不明となり,右売掛代金は回収不能となったものであるから,必要経費(貸倒損失)に算入すべきである。
作家名 作品名
内山孝作 「グレーの教会」
販売価額 172,000円
棟方志功 版画「柵と女」
〃 1,400,000円
同 同
〃 800,000円
同 同
〃 500,000円
(六)合計
以上(一)ないし(五)の合計金額は,127,272,000円となる。
2 被告の主張
(一)佐々田に対する支払利息
(1) 原告主張の60,000,000円の支払事実自体明らかではないうえ,昭和54年3月14日原告が佐々田に対し30,000,000円を支払った事実があるとしても,元本たる借入金と原告の事業との関連性,元本の額,約定利率及び借入期間が明らかでないから,係争年分の支払利息として必要経費に算入すべき金額を確定することはできない。
(2) むしろ,同54年1月1日から同年3月14日までの間の借入金利息については,佐々田は原告に対し,これを免除している。
(3) 同52年8月18日当時原告の佐々田に対する借入金額が30,000,000円であった事実を認めるに足る証拠はないから,利息制限法に基づく制限超過利息の元本充当についての原告主張は,その前提を欠き失当である。
(二)西村の絵画7点持ち逃げによる損害金
原告主張にかかる原告と西村との絵画取引は,合計42,100,000円という多額のものであるにもかかわらず,取引内容は曖昧であり,その後,原告は西村に対し権利回復や刑事責任追及の手段を講じていないことなどから,対象絵画の仕入れ事実及び委託販売事実自体疑わしい。
原告と西村との間で,絵画の委託販売事実があるとしても,昭和54年中には,未だ西村による販売代金横領の事実は発生しておらず,仮に,同年中に既に横領の被害事実が発生していたとしても,これに代わる損害賠償請求権が発生することになるから,同請求権が同年中に回収不能となった事実が認められない以上は,係争年分の損失として必要経費に算入することはできない。
(三)「闘争」の仕入価額
「闘争」の仕入価額は実額で確定できないため,昭和54年6月当時,北九州市立美術館が東鐵男から購入した価額3,500,000円に基づき,3,000,000円と推計した。
原告の係争年分における「闘争」を除く絵画の売上原価率は,83.41%であるから(売上価額3,500,000円とすると売上原価は2,919,350円となる。),右推計は合理性がある。
(四)原田及び新里に対する売掛金の貸倒損失
原告主張にかかる両名に対する売掛債権につき,昭和54年12月末日までに,同債権が回収不能となった事実は認められないから,係争年分の貸倒損失として必要経費に算入することはできない。
(五)以上のとおりであるから,原告の昭和54年分の事業所得金額は別表記載のとおり△9,181,041円となり,これは前記異議決定における事業所得金額と同額であるから,本件更正処分等は適法である。
第三当裁判所の判断
一 佐々田に対する支払利息
1 原告の佐々田に対する借入状況
原告は,昭和41年ころから,佐々田から,月四分五厘から六分位の高利で金員を借り入れるようになったが,同45年7月25日ころまでには,その債務を一旦清算し,その後,同52年8月ころ,絵画購入資金として,2回に分けて,15,000,000円と5,000,000円位,合計20,000,000円位を借り入れるなどし,同人に対する債務は,同54年3月ころまでには,元利金合計34,000,000ないし35,000,000円位になっていた(甲第1号証,同第20号証,証人佐々田幸弘の証言)。
原告は,同41年ころからの佐々田に対する債務は清算されずに,借り入れの際に振り出した約束手形又は為替手形を,支払期日経過後,日歩25銭の割合の金利を元本に組み入れて新たな額面の手形に書き替えることを繰り返した結果,同53年12月ころまでに額面73,000,000円と56,480,000円の2通の手形債務を負担することとなり,この順次書き替えられた手形の一部(26通)を袋に入れ,机の引き出しに保管していたものが甲第5号証1ないし26であり(なお,同号証の1は,額面3,200,000円,振出日同49年7月30日,支払期日同年8月29日,同号証25は,額面54,930,000円,振出日同52年4月19日,支払期日同年5月22日の各記載がある。),右の債務等を確認したメモが甲第6号証の1,2である旨,原告の主張に沿う趣旨の供述をする。
しかしながら,証人佐々田幸弘は,甲第5号証の1ないし26の手形を受領したことはなく,同第6号証の1,2のメモも知らない旨供述していること,右各手形にはいずれも受取人名の記載はなく,裏書もなされていないことなどに照らすと,原告の右供述はたやすく信用できない。
2 30,000,000円支払の趣旨
原告は,昭和54年3月14日佐々田に対し額面15,000,000円の小切手2通を交付し,合計30,000,000円を支払ったことが認められる(甲第7,8号証の各1,2,証人佐々田幸弘の証言,原告本人尋問の結果)が,原告が同人に対し同年中に合計60,000,000円を支払ったという事実を認めるに足る証拠はない。
原告は,右30,000,000円支払の趣旨は,その全部又は一部が佐々田からの借入金の利息である旨主張をする。
しかしながら,証人佐々田幸弘は,右30,000,000円により,前記認定にかかる当時の元利金全部を決済したものであり,同年中,他に金員は受け取っていない旨証言しており,その全部が利息であるとは到底認めることはできず,また,その一部は利息であるとみる余地があるとしても,元本額,約定利率及び返済期日等,利息債権額を確定するに足る証拠はない。
また,原告は,利息制限法に基づく制限超過利息の充当計算の主張をするが,昭和52年8月17日当時の原告の佐々田に対する借入債務額が合計30,000,000円であったことをその計算の基礎としているところ,右の事実を認めるに足る証拠はないから,原告の右主張は失当である。
そうすると,原告が係争年中に佐々田に支払った右30,000,000円の全部又は一部が利息であると認めることはできない。
二 西村の絵画7点持ち逃げによる損害金
1 西村作成の取引残高証明書及び西村供述の信用性
甲第9号証(西村作成の「昭和54年度取引残高証明書」と題する書面)には,絵画7点(作家名,作品名及び金額は原告の前記主張に符合する。)を,西村が,昭和54年度に購入したが,一身上の都合により支払いをしておらず,今後も支払いは不可能である旨証明する内容の記載部分がある。また証人西村は,「右の絵画7点のうち1点(中山忠彦作「少女」)は販売を仲介したもので,残り6点は自ら購入した。金額は原告の方の売値である。田崎広助作「桜島」,織田広喜作「女達」以外の5点は韓国人の李尚珉に同5,6月ころには転売し,同人から代金の代わりに焼き物を37,8点引き取ったが,結局,代金の回収はできなかった。」などと供述する。
しかしながら,乙第2号証(原告作成の販売帳)中の西村に対する右絵画7点の販売を記録した同54年4月の項末尾の記載部分は,後日に書き加えられた形跡が顕著であること(乙第3号証),右取引残高証明書自体,原告の異議申立後の調査段階である同59年ころになって作成されたものであること(甲第10号証,同第11号証の1ないし4,証人西村の証言,原告本人尋問の結果),原告自身は,右絵画7点はいずれも西村に販売を委託して預けたものであり,右取引残高証明書記載の金額は原告の仕入価額に相当するものである旨供述するなどしており,肝心の取引形態や取引金額の内容について,西村の右供述部分と矛盾していること,原告主張によれば,原告は西村から合計約42,100,000円という多額の損害を受けたというのに,その後約5年間,同人に対し損害回復のための具体的な手段を講じた形跡が何ら窺えないこと,原告は,同59年7月5日付で西村に対する業務上横領の告訴状を作成しながら,同告訴状は捜査機関には受理されていないのであって,原告が西村の刑事責任を追及する意思があったのか疑問であること(乙第4号証の1,2)などを総合すると,右取引残高証明書の記載内容及び西村の供述内容は不自然かつ不合理であって,たやすく信用できない。
2 西村の横領による損害の有無
他に原告主張にかかる絵画7点の西村に対する販売委託の事実を認めるに足る証拠はないから,係争年中の横領による損害の発生を認めることはできない。
三 「闘争」の仕入価額
1 原告供述の信用性
原告は,「闘争」を,15,000,000円で仕入れ,代金は支払い済みであったが,その後,海苔加工会社を経営する福岡の東鐵男から1,000,000円を借りる際の担保に供し,引き渡したところ,右借金を1か月後の期限までに返済できなかった旨,原告主張に沿う趣旨の供述をする。
しかしながら,15,000,000円で仕入れた絵画を1,000,000円の債務の担保に供したという右供述内容自体不合理であるばかりでなく,原告は,「闘争」の仕入先について,相手に迷惑がかかるから明らかにできない旨供述してこれを秘匿したり,仕入時期について,美術界ブームの同52年ころと一旦供述した後,オイルショック(同49年ころ)の前ころと思う旨暖昧な供述をしていること,乙第2号証(原告作成の販売帳)には,同54年3月の項に,「闘争」を,売上先東海海苔,仕入20,000,000円,売値850,000円とする記載部分があり,その仕入価額及び販売価額とも右供述部分と矛盾すること,東鐵男は,大蔵事務官に対し,同54年2月ころ,原告から「闘争」を1,000,000円か1,100,000円で買い,原告との間で金銭の貸借はないから,担保にとったものではない旨述べていること(乙第1号証),「闘争」は,その後,同年6月28日に北九州市立美術館が3,500,000円で取得したこと(乙第5号証1,2)などを考慮すると,原告の右供述部分は到底信用できず,他に原告主張にかかる仕入価額を認めるに足る証拠はない。
2 仕入価額推計の合理性
被告は,「闘争」の仕入価額を実額で確定できないため,右のとおり,同54年中に公的機関である北九州市立美術館が取得した価額3,500,000円に基づき,3,000,000円と推計した。
「闘争」の仕入価額を3,000,000円,販売価額を1,000,000円として,これを被告主張にかかる原告の係争年分における売上原価,収入金額から除き,「闘争」を除く係争年分の売上原価率を算出すると,計算式1のとおり,約83.4%となる。
次に,販売価額を3,500,000円として,右の売上原価率を適用すると,計算式2のとおり,仕入価額は2,919,000円となるから,これを3,000,000円とした右の推計は合理性があり,これを覆すに足る反証はない。
計算式1
(50,987,357円-3,000,000円)÷(58,533,430円-1,000,000円)≒0.8341
計算式2
3,500,000×83.4%=2,919,000
四 原田に対する売掛金貸倒損失
乙第2号証(原告作成の販売帳)には,昭和54年10月の項末尾に,作家名,作品名,売上先及び仕入(値)について,原告主張と符合する絵画4点の記載はあるが,いずれも売値の記載がなく,単に「未」と記載されているだけであるから,原田に対する売掛債権額(販売額)を確定することはできず,また同年中に右売掛債権が回収不能となったことを認めるに足る証拠もないから,係争年中の原田に対する貸倒損失の発生を認めることはできない。
五 新里に対する売掛金貸倒損失
1 新里作成の取引支払高証明書及び新里供述の信用性
甲第12号証(新里作成の取引支払高証明書)は,原告主張に沿う記載内容となっているが,その作成について証人新里正夫自身は,一旦,自己が作成したことを否認するかのような供述をした後に,商品名の記載部分以外は自己の筆跡と同じであることを認めるに至るという不自然かつ曖昧な供述をし,作成時期についても曖昧な供述をするだけでなく,その記載内容中,内山孝作「グレーの教会」については買った覚えはない旨供述するのであるから,その記載内容全部をただちに信用することはできない。
証人新里正夫は,昭和54年の春ころ,自己が開催する茶道具などの焼き物の個展に客寄せのため展示する目的で,原告から,棟方志功の版画を1点5~600,000円位のものを5,6点買い,代金額は大体合計で3,000,000円でおつりがくるぐらいであり,個展で収益を上げて支払うつもりであったが,計画通りの収益を上げることができず,同年中には右の代金を支払うことはできず,同55年以降,自宅に原告が支払の催促に訪ねてきたりした旨供述するところ,同62年2月23日国税不服審判官の電話聴取に対しては,原告からの絵画購入について,ずいぶん前のことではっきりしないと答えていたこと(乙第6,7号証)に照らすと,その信用性につき疑問の余地がないではないが,右供述により,原告の主張のうち,棟方志功の版画数点の新里に対する売掛販売事実自体は,これを認めることができる。
2 売掛債権額の確定及び回収不能時期
しかしながら,右の売掛債権額についての証人新里正夫の供述内容は曖昧であるから,右供述だけではこれを確定することはできず,乙第2号証(原告作成の販売帳)中には,同54年11月の項に右棟方志功の版画3点の記載があり,仕入値は原告主張に沿うものの,売値欄には,「倒産」とのみ記載され,金額の記載がないから,結局,売掛債権額を確定することができない。しかも,証人新里正夫によれば,同55年以降も,原告から支払の催告を受けていたというのであるから,同54年中に,右売掛債権が回収不能となり,または放棄されたと認めることはできず,結局,係争年分の貸倒損失として必要経費に算入することはできない。
六 結論
以上によれば,被告主張のとおり原告の係争年分の事業所得金額を認定することができるから,本件更正処分等は適法である。
(裁判長裁判官 生田瑞穂 裁判官 岸和田羊一 裁判官 青木晋)
<以下省略>